オーナーのひとりごと

牛とろと私 〜ご当地どんぶり選手権 ”牛とろ丼”準グランプリに寄せて〜

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私が牛とろと初めて出会ったのは、ある十勝のある宿でした。
「宿を創りたい」という思いが、十勝を選び出し、情報収集に足を進めていた頃。
温かいごはんにかけられた、赤いフレーク上の物体…。
その宿での夕食が他に何があったのか忘れてしまう程、強烈なインパクトがありました。
口に入れると、ふわっととろけ牛肉の旨味が口いっぱいに広がります。
いや、そんなありきたりな言葉では説明がつかないような味わい。

一言でいうなら、「初めて食べた肉の味」といった所。
「うちの宿でも出したい!」
初めてメニューの一品が決まった瞬間でした。

あっという間に人気メニュー

牛とろを仕入れるにあたり、工場に伺いました。
清水町の中にある「御影」という町です。
アイスホッケーが強い場所としても有名ですね。
宿を始める事を伝え、仕入れのお願いをしました。
ちょっとコストはかかりますが、あの味には代えられません。

宿もオープンして慣れてくると、お客様と余裕を持ってお話が出来るようになりました。
食材についてもいろいろ。
特に質問が多かったのがこの「牛とろ」。
夕食を見ると多くの方が「これは何ですか?」から始まります。
まだまだ認知されておらず、ほとんどのお客様が知らなかったんですね。
しかし、その味わいに喜ばれる方も多く、
あっという間にうちの人気メニューとなりました。
赤い感じの色合いも夕食の献立としてとても映え、使いやすい食材でした。

会社の存続すら危険な状態に…

やはり美味しい物には人気が集まり、
工場を新築しました。
生ものを扱う工場ですから、
衛生面に十分配慮したそうです。
食品製造の際の安全性が
認められた工場のみ評価される
HACCPにも対応しました。

が、事件は起きました。
ある焼肉店の「ユッケ」による集団食中毒事件です。
安全管理があまりにもずさんだったため、亡くなる方も出てしまいました。
結果、生肉に対する規制が非常に厳しくなりました。

生肉を扱うのに非常に重要な行程が「トリミング」。
これは、牛肉の表面をそぎ落とす事で雑菌を除去する作業です。
雑菌は肉の内部に入り込む事はないので、
表面をそぎ落とす事で安全に生肉を楽しむことが出来るんですね。

トリミングを行う事すらなかった「ユッケ」と、
清潔な環境でトリミングされできた「牛とろ」が、
同じように規制されるのはおかしな話だと思いました。
しかし、残念ながらそれまでの方法で「牛とろ」を作る事は出来なくなってしまいました。
まさに工場を新築したその年に起きたのです。
「目の前が真っ暗」とはこのことを言うのでしょう。
社長の落胆ぶりは容易に想像出来ます。

「牛とろ」が主力商品だったため、売上は激減し、
会社の存続にも関わる事でした。
一時は廃業することも考えたそうです。

しかし、何人もの従業員を抱える会社をそう簡単にあきらめることは出来ません。
何とか良い方法はないかと試行錯誤の日々が始まりました。

生まれ変わった牛とろ

「牛とろ、食べられないんだ…」と残念そうに話すお客様がいた頃、
工場では新たな「牛とろ」を目指して、失敗の連続が続きました。
現場では、かなり重苦しい空気が漂っていたに違いありません。

そんな中、一筋の光が見えました。
そのヒントとなったのが「生ハム」です。
生ハムを作る時は塩で包み込むように保存し、その後塩抜きをします。
加熱して食べる方法もありますが、多くは生で。
塩の殺菌作用をうまく利用しているんですね。

詳しい製法は企業秘密となりますが、この方法を応用して見事に「牛とろ」を復活させました。
私は旧製法の味を知っていますが、違いは全くわかりません。
変わらず口の中で肉の旨味がとろけます。
「和みの風」にもあの味が戻りました。
常連さんにもとても喜ばれました。
工場を見学させて頂き、
その設備のすばらしさと「牛とろ」に対する思いがとても伝わって来ました。

そして、「牛とろ」の快進撃が始まります。
全国ネットのテレビで紹介されるやいなや、注文が殺到。
インターネットで手軽に購入することが出来るので、数ヶ月待ちという事も…。
「これは何ですか?」と話していたお客様は、「テレビで見た事があります」という
返答に変わっていました。

「牛とろ丼」として、フードフェスティバルにも積極的に参加。
昨年、東京で開かれた「まんぱく」で総合優勝。
2014年から参加している「全国ご当地どんぶり選手権」では、
4位 → 5位 → 3位 → 3位
と、少しずつではありますが、順位を上げています。
15〜16丼ある中で、長年にわたりこの順位を維持するのは、
やはり今までの努力の結果だと思います。

そして、今年は「準グランプリ」!
金の丼には手が届きませんでしたが、すばらしい結果です!

一度はあきらめかけた「味」が、こうやってどんどん成長していくのを見ていると、
陰ながら嬉しく思ってしまいます。
本当によかったですね。

そして、これからも口の中でとろける「牛とろ」を作り続けて頂きたいと思います。
「準グランプリ」おめでとうございました。
来年はグランプリを目指して!

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