北海道十勝清水町御影地区にその広大な庭は広がっています。十勝毎日新聞という地元に密着した夕刊専門の新聞社が30年以上前に掲げたのは、1,000年先を見据えた庭づくり。効率を追い求め、先進技術を生み出してきた競争社会は、地球規模での気候変動や環境破壊に直面しています。その新聞社がそんな高度化した社会に対して、自然と人との関わり、そして物事の本質を根源から見直す場を育むべく2008年にスタートしました。
新聞社ですから当然大量の紙を使います。その消費した原料の木材を自然に還元するために森を育てることにしたんですね。「カーボンオフセット(炭素の相殺)」といえば聞こえはいいのですが、そんな難しいことを考えず、ありのままの自然を感じる場として、この広大な庭はとても心地がいい場所だと私は思います。
広大な土地に4つのガーデン
マンサードホールと呼ばれる案内所で受付をすると、目の前に広がるのはエントランスフォレスト。この庭を手がける前は、2mを超える熊笹が一面に広がっていたそう。そこに人の手が入り、整えることで眠っていた草花たちが色とりどりに輝いていきました。エゾノリュウキンカやニリンソウ、ハルカラマツなど、可愛らしい花々が点在します。花壇のようにビビットな花たちが並ぶ姿ではなく、ごく自然にそこで育ち、ありのままの姿を見せてくれます。
木漏れ日も美しく、風も心地よく。目を閉じれば、小鳥のさえずりや虫たちのざわめきがかなりの音量で響いていることに気が付きます。
アースガーデン
十勝千年の森で一番印象的な景色といえばこちら。広大な芝生、でも平面でなくうねりとなった丘は大小合わせて13ヶ所。一面を覆い尽くす緑の芝生は2種類の品種の組み合わせから成り立っています。丘の全面が芝ではなく、急勾配の部分にはより緑の濃い草を配置することで、表情に変化をもたらせています。その陰影は光の加減でさらに動きが激しく。
実はこの芝生、一切農薬を使用していません。ゴルフ場のように何かの犠牲によって作られた緑ではなく、人の手でカバーした完全オーガニック。その技術もさることながら、作業面積の膨大さに頭が下がります。
せっかくなので、ふかふかに整えられた芝生の上を裸足で歩くのも心地が良いですよ。寝転ぶのもまた。人工物が一切目に入らない青空を見ながら、流れる雲を眺めていると今までに感じたことのない境地に至るかもしれません。「贅沢な時間」とはきっとこういうひとときなのだと思うのです。アースガーデンだけでもかなりな広さですが、その奥には千年の丘が広がります。丘といっても13ヶ所の丘とは全く異なり、ちょっとした山です。舗装され歩きやすくはなっているものの、勾配が思いのほかキツく歩くと大変。それでも頑張れば、芽室岳をバックにした展望のきく景色を堪能できます。煉瓦造りの休憩所キサラが、とても小さく見えるように。
フォレストガーデン
アースガーデンが動なら、フォレストガーデンは静。エントランスフォレストと同じように、木々の中を散策します。途中、小川も流れており、その清流の美しさに目を見張ります。きっとその冷たさにも驚くでしょう。この十勝千年の森に流れ込む川は麦飯石という多孔性の石を通ってきた澄んだ水。麦飯石の表面にある無数の孔は有害物質や細菌を吸着するという特性を持っているそう。途中、浮草の栄える池や巨大ミズバショウに出会えます。夏の暑い日は日影が少ないので、ここで涼むのもおすすめですね。
メドウガーデン
フォレストガーデンから一転して人の手が作り出したナチュラルなガーデン。メドウとは草原の意。枕木が広がる庭には、さまざまな品種の草花が秩序を保って植えられています。計算されたその姿は、季節によっても大きく変化するんです。視線を引きやすいお花ばかりでなく、淡い緑の新芽や来年のために蓄えた種子の姿に注目するのも面白いですね。
ファームガーデン
こちらは農の庭。様々な品種のバラやハーブ達が目を楽しませてくれます。隣に建つガーデンカフェではそれらハーブを利用したお料理やハーブティーなどもあり、鼻や舌も喜ばせてくれます。帯広にあるトテッポ工房で作られたケーキたちもお出迎え。歩き疲れた身体にやさしい味が染み渡ります。
もちろん十勝ですからソフトクリームだって。チーズ作りの千年の森らしく、濃厚なチーズチップ付きです。
奥に広がるゴートファームでは可愛らしいヤギたちが走り回っています。芝生の緑に白いヤギのコントラストが映えますね。100円のガチャガチャでおやつを買うと、ちょっと怖いくらいに寄ってきます。そのヤギのミルクで作ったチーズも販売中。その独特な味わいはクセになるとの話。国内外のチーズコンテストで賞を獲得したこともあるんだとか。
やはりセグウェイ
十勝千年の森といえば「セグウェイ」という方も多いでしょう。2008年オープン当初から、珍しさもあり注目されました。残念ながら公道は走れないためメジャーな移動手段とはなりませんでしたが、その独特なフォルムと体重移動を介した乗車方法は、新鮮な印象を与えてくれます。
何と言っても乗ると楽しいのです。自転車ともバイクとも違う、不思議な感覚。操作自体は難しくはないので、スタッフの方からレクチャーを受ければ誰でもすぐにマスター出来ます。乗降車時が危険になりやすいのでちょっとした注意が必要ですね。
2時間ちょっとで1万円近い料金設定が「高い…」という印象を持つ方もいると思うのですが、実際に体験すると満足感に変わってしまうのもまた事実。それだけ楽しいのです。そして、広大な風景にマッチしているのです。大変な思いをして登った千年の丘も、セグウェイなら楽々。風を感じながらあっという間に頂上です。ガイドスタッフの方からアート作品を前にアイヌ民族の民話も聞けますよ。千年の丘を制覇する「草原コース」を終えた方は「森林コース」へとレベルアップ。次回はフォレストガーデンでの散策になります。
以前、平地に細かなカーブを交えたテクニカルなコースを作ったそうですが、あまり人気がなかったそう。求めるものが違ったのかもしれませんね。「森林コース内にアスレチックの様な自然に溶け込んだコースとすればまた違った反応かも」とスタッフの方。今後に期待です。
点在するアート作品
広い庭の敷地内には、アート作品が点在しています。麦飯石による作品だったり、大地に散りばめられたダイヤモンドだったり。本当にダイヤモンドが埋められているという話もあれば、見えない価値のあるもと捉えたり。散策しながらさまざまな思いにふけるのも、この千年の森を楽しみ方としてぴったりです。
以前蕎麦屋として親しまれていた「ほうの木」は残念ながら営業終了となり、見学できるよう開放されています。日本の伝統的な合掌造りとしてアート作品の一つとなっています。何しろ富山県からの移築し、現地の職人さんの協力を得た茅葺き屋根ですから本物です。
十勝千年の森はこんな楽しみ方がぴったり
受付の際、このようなタブロイド版の冊子を頂きます。さすが新聞社、そしておしゃれです。ここに描かれた地図を頼りに散策しますが、とにかく広いです。400ha(東京ドーム85個分)と書いてあるもののいまいちピンと来ません。ディズニーランドとディズニーシーを合わせた面積の4倍と言ったら、もう少し分かりやすいでしょうか。この広大な土地を十名前後のスタッフで保っています。庭造りをしたことがある方ならわかるかと思いますが、雑草の生命力は半端ないです。機械の力を借りるとはいえ、大変な作業には違いありません。
十勝千年の森について「何も無い施設」と残念な口コミも見られますが、チューリップやラベンダーが咲き乱れる派手な風景を期待してはいけません。ゴルフ場の様に人工的に作られた芝生ではなく、観光地化された花畑でもないのです。むしろ、そういった商業的な施設に疑問を投げかける場所かと。
多くの木々や草花に囲まれ、鳥や虫たちの声を聞き、自分の心とも会話したくなります。広大な自然と触れ合う事で、人間自体もまた環境の一つとして感じられる空間が、この十勝千年の森の魅力の1つかと思うのです。
ガーデナーの方が意思を持って作り上げた大きな庭を、ゆっくり感じながらそこにいるだけで心地の良いと感じてもらえたら、なんと有意義で贅沢な時間になるのではないでしょうか。
時間に余裕を持って、ゆっくりと巡って下さい。大きな北海道とガーデンを創る方々の想いを肌で感じながら散策してほしいですね。日差しの強い日は帽子と日焼け対策を忘れずに。
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