介護が必要なご両親と一緒に旅行をするためのヒント集、いよいよ行動編です。今まで、いろいろと準備をしてきました。いよいよ出発です。せっかくですから、楽しい旅行にしたいですよね。
心構えについてはこちらをご覧ください。
- あくまで旅行を楽しむためのヒントです。こうすればうまく行くといったマニュアルではありません。
- 介護者の体調や気持ちの状態によって、必ずしも文章と同様の反応が得られる訳ではありません。その方にあわせた対応をお願いします。
- 旅行について個別的なアドバイスを希望される場合は、こちらをご覧ください。
出発直前に確認しておきたい事
旅行中の天候は問題ないですか?思ったより寒そうだったら、軽い上着を一枚増やすのもいいでしょう。交通状態も大丈夫ですか?高速道路が事故や工事で通行止めになっているかもしれません。そして、何よりご両親の体調はいかがですか?今までいろいろと準備してきましたら、ご本人も少なからず緊張していると思います。普段と変わらず、お元気でしょうか。
もし、体調が思わしくなければ、あまり無理しない方がいいでしょう。突然の中止ともなれば、宿泊先にキャンセル料を払う必要が出てきますが、無理して出発して体調が戻らなければもっと大変です。「やっぱり旅行なんて無理だったんだ」となってしまう可能性もあります。勇気を持ってキャンセルを検討しましょう。
スケジュールにこだわりすぎないで
実際に旅に出たら、思わぬことが起きるもの。サプライズ的な出来事もあれば、残念なアクシデントだって。この時に大切なのは、スケジュールにこだわりすぎないこと。その状況にあわせて、柔軟に変更しましょう。行きたい所に行けなくなるかもしれませんが、次回のお楽しみとして素直に変更をお勧めします。「なかなか来れないんだから」という気持ちもわかりますが、「また来れるんだから」と考えましょう。「本当に行けなくなった」では悲しいですからね。
逆に、楽しそうな事があれば直感を信じて行動してみるのも。「この道を進んだら何があるかな?」も、新たな発見があるかもしれません。旅行は仕事ではありません。みんなが安全に楽しく過ごすものです。たとえ道に迷っても思い出になります。
自然な感じを撮影しましょう
旅行に出かけたら写真を撮りたくなりますよね。美しい風景やおいしいお食事、そして記念撮影。それはそれでいいのですが、せっかくなのでもう少し違う撮影を楽しみましょう。昔と違って写真もデジタルなので、いくら撮っても簡単に消去出来ます。集合写真で硬い表情を撮るよりは、自然な表情を狙うようにしましょう。写真なんてなかなか撮る機会がありません。
動物と触れ合った時の自然な笑顔、地元の新鮮な魚介類を食べ満足そうな表情、力強く歩いている後ろ姿など、意識的に撮影に励みましょう。写真は多ければ多い程、思い出話しに花が咲きます。出来れば、撮影に慣れている方がいいですね。役割分担をしっかりして、カメラマン係を作るといいでしょう。時には小さなお子さんに頼むと、印象的な1枚が出来上がるかもしれません。カメラアングルなどちょっとした変化も有効です。帯広を舞台にしたお役立ち記事がこちら。
カメラを向けると、硬い表情になるのも良くある事です。でも、撮り続けるとだんだんカメラに対する意識が薄れてくるのも事実。また、集合写真を撮る際、「はい、撮ったよ〜」と言いながらその後にもう何枚か連写をすると、軟らかな表情がとれる時もありますね。
ケアマネージャーや訪問看護師と密に連絡を取っているのであれば、余裕がある時間にメールで送るのもいいと思います。写真一枚でいいんです。「元気で過ごしています!」の一言メッセージとご両親の笑顔の写真。それだけで、送り出した方の安心に繋がります。
動画はさらに有効です
お子さんが小さい頃は、よくビデオカメラで撮影したと思います。でも、そういう機会が減るのも事実。最近はスマホでもきれいな動画が簡単に撮れるので、是非撮影してみて下さい。写真よりもいい表情が撮りやすいと思います。
お勧めはご両親が話す所。その方の声、表情など反応そのものが丸ごと残ります。カメラマンが話しかけながら撮影するのもいいのですが、違う方が話しかけて、話しが盛り上がっていく過程を撮影すると、いい思い出になりやすいです。後で編集しやすいように、あまり長時間でなく10〜30秒程度の短時間での録画を何度も撮影するのがコツです。
また、歩ける方ならばその姿も撮っておくといいですね。自分の歩いている姿を見る事はありませんから、是非ご本人に見せてあげて下さい。姿勢の悪さに驚くかもしれませんが、それを機に気をつけるかもしれませんよ。
なかなかお逢い出来ない方に、動画のプレゼントはとても素敵です。「撮っておけばよかった〜」とならないためにも、こまめに撮影を。
トイレ、どこにある?
旅行中に必ずでてくるのがトイレ問題。「行きたいときにトイレに行けないのが心配で…」なかなか相談しにくい話題だけに、我慢している人も多いはずです。
10年前に比べて、車椅子用トイレ、多目的トイレは本当に増えました。皆さんもショッピングセンターなど様々な所で目にする事があると思います。今ではインターネットを利用して、どこにあるかすぐ調べることが出来ます。
他にもgoogle mapで探すことが出来ます。「多目的トイレ 地域名 」と検索すればすぐに表示が。例えば「多目的トイレ 帯広」で検索するとこのような表示になります。
旅行するコースのどの辺りにこのようなトイレがあるのかを把握しておくのは、とても有効ですね。ただ、一つ注意が必要なのは、車を降りてからトイレまでの距離がわからないこと。例えば、高速道路のパーキングエリアや道の駅だったら、車から降りればすぐトイレがあります。
でも、ショッピングセンターや病院内のトイレだとしたら、駐車場からかなりの距離を移動しなければなりません。そんな事も考慮しながら、チェックしておくと慌てないですむと思います。
トイレの場所はわかっていても、間に合わない可能性がある方もいるでしょう。そういった方は、紙パンツや尿とりパットを使用する方法もあります。以前に比べ使用に抵抗感が薄れてきているので、普段使っていない方でも安心のためと勧めてみるのもいいと思います。旅行を機に慣れておくのもいいのかもしれません。実際に使用しなければそれに越した事はありません。「どうしてもだめなら…」という備えが、心の余裕を生み出すと思います。
ただし、無理強いはやめましょう。あまり強く勧めると紙おむつに対しての拒否反応が強くなる恐れがあり、本当に必要な時受け入れが悪くなる可能性があります。そういった方には、万一を考えて使い捨ての携帯トイレを持参するといいかもしれません。最近の商品は使用後すぐに固まるのはもちろん、消臭作用もバッチリです。
またトイレが忙しくなるのがいやだからと、水分を控えるのは避けましょう。テレビなどでよく言われているのでほぼ常識になっているとは思いますが、どうしても控えてしまう方がいます。
脱水や熱中症、脳梗塞等、水分が足りない事で病気になるリスクはとても高まります。車で長時間座っている事によって生じるエコノミークラス症候群も同様です。高齢者は体内に貯めておける水分が少ないので、こまめに摂取する事はとても大切ですね。普段より動く事が多いので、意識的にお茶の時間を作りましょう。ご当地ドリンクを勧めてみたら、すんなりと飲んでくれるかもしれません。
トイレに行くタイミングは、人それぞれ。旅行に行く前に、ちょっと気にしてみてみましょう。
例えば朝方は1時間おきにいくのに、日中はあまり行かない事もあります。そういったパターンを知っておくと、旅行の際役立つ場合があります。
ただ、旅行に行くと普段と行動が違いますから、変わる可能性もありますが。あまりにもトイレに行く回数が多いのであればこれを機に泌尿器科への受診もいいかもしれません。薬の力で少しは改善されるかもしれませんよ。
トイレの問題が落ち着くと、安心が増えます。ご本人は言えないだけかもしれません。周囲がちょっと気にかけてみましょう。あくまでさりげなく。
「トイレ休憩」という言葉
高齢になれば、トイレ休憩はマメに取る必要があります。ただ、是非気をつけて頂きたいのが「トイレ休憩」という言葉。確かにトイレ休憩には間違いないのですが、言われたご本人はどのように感じるでしょうか。小さなお子さんがいたら、「またトイレなの〜」と、デリカシーのない言葉を軽々と言うかもしれません。
「このお店、ちょっとのぞいてみたい」、「ここ行ってみたいな〜」と違う理由で寄り道をしましょう。そういう意味では「道の駅」などが使いやすいでしょうね。「運転疲れちゃったな〜」でもいいんです。とにかく、その方のトイレだけのために停まるという事を明言しなければいいだけなのです。それぞれ時間が余計にかかってしまいますが、それもまた旅行。みんなが気持ちよく旅を楽しむために、ちょっとした気遣いですね。
トイレで言えば宿泊地での夜間のトイレも配慮が必要です。トイレまで真っ暗だと何かにつまづく可能性も出てきます。足下を少し明るくした状態でお休みしましょう。また、つまづかないようにトイレまで歩く廊下には何も置かない方がいいです。もし可能ならば、出来るだけトイレに近いベッドを選んであげるのがいいですね。
主治医の確認が必要ですが、眠るためだけの睡眠導入剤はお休みしてもいいかもしれません。旅行で十分お疲れですから、きっとぐっすり眠れるでしょう。新しい環境なのでトイレまでの道のりが、薬によってふらつく事の方が心配です。
旅先で体調を崩さないようにするために
症状が見られるようになってしまったのであれば、仕方がないですが、出来れば何事も起きてほしくないもの。旅行先で体調を崩さないよう、水分は十分にとりましょう。脱水も、熱中症も、脳梗塞だって水分不足が影響します。休憩したときには、水分補給も忘れずに。
短期間の旅行であればそれほど心配ありませんが、お通じの心配もあります。旅行先ではすっきり出来ない方も多いのではないでしょうか。いつ出たのか把握して、下剤の力を借りるのもよいのかもしれません。反対に、緩くなりがちな方は冷たい物に注意が必要になりますね。普段のお薬を忘れずに内服して、元気に旅を続けられるといいですね。
受診をした方がいい?
旅行にはアクシデントがつきものです。急な天候の変化など予想のつくものもあれば、全く想定外の事だってあるかもしれません。様々なアクシデントがあると思いますが、ここではご両親の体調に変化があった場合の対応についてお話しします。
例えば発熱。
38℃以上も出れば、旅行なんて楽しんでいる余裕などないのはわかりますが、37.3℃前後など、判断に迷う場合も。このまま旅行を楽しんでいいのか、出来るだけ休んだ方がいいのか…。他の症状やその方の平熱なども関係するので、一概には言えません。平熱が37.0℃の方も実際いるので、37.3℃でも他に症状がなければ、旅行を続けても問題ない場合もあるでしょう。
判断に迷う事もあると思います。一番避けた方がいいのは、ご本人が症状を訴えているのに、無理に予定通りのプランを進める事です。体調が優れなければ旅行を楽しむなんて出来る訳はありません。まず、宿や車内など落ち着いた場所で休息を取ります。それほどつらくないようなら、そのままお出かけするのもよいでしょう。ただ、あまり無理をせず早めに宿に入るなど、臨機応変に対応しましょう。
判断に迷った場合、もし可能ならばかかりつけの医師や訪問看護師などに相談するとよいですね。その場での対処方法や今後気をつけるべき点などについて説明してくれると思います。明らかに症状が見られるときは、近所の病院を検索して受診するのも必要です。もし病院がわからないときは、宿泊する予定の宿にお勧めの病院を聞くのもいいですね。地元の方ですから、病院にもそれなりに詳しいかと思います。症状を伝えれば、ある程度のアドバイスをもらえるでしょう。健康保険証とお薬手帳はお持ちですよね。
また体温計や氷枕など、宿泊先から借りることが出来るかもしれません。市販薬も含め聞いてみるのも一つの手でしょう。
旅行後はとにかく休息
楽しい時間というのはあっという間に過ぎるものです。あれだけ準備に時間をかけたのに、いざ旅行に行くとすぐに終わってしまうものですね。充実していたと思える反面、ちょっとした寂しさが。自宅に戻って来た時のお話を。
旅行は体力を使います。普段の何倍も動いているので、体が疲れているのは当然です。また、肉体的な疲労もありますが、精神的にも疲労しています。毎日同じ事をこなすのは、それほど考える事はないので疲れにくいものですが、旅行は全てが新しい体験なので、その都度考えなくてはなりません。観光地を移動するだけではなく、食事だってトイレだって、考えて行動する必要が出て来ます。実はそうやって考える事って結構疲れるものなんです。本当はそういう刺激はとても大切なんですけどね。
身体的にも精神的にも疲労している訳ですから、とにかく休息が大切です。旅行した期間と同じくらいの期間、十分休みましょう。1泊したなら2日間、意識して休息を取ります。ディサービスの日であったとしても、休んだ方がいいと思います。
旅行中は気が張っているものです。そのため、自宅に帰ると一気に気が抜けてしまいます。そんなときが一番注意が必要。体調を崩す原因にもなりかねません。気が抜けて風邪をひかないためにも、何もしない日を過ごした方がいいでしょう。
思い出を振り返る
休息を取るといっても、1日中誰とも話さず寝ているわけにはいきませんね。そんな時こそ、思い出話をしてみましょう。旅行を振り返る事で、しっかりと記憶出来るようになります。早い段階で楽しんだ事を振り返ると、より正確に記憶が固定化することが出来るはずです。
そんなときに有効なのが写真です。ほとんどがスマホやデジカメで撮影されたものでしょうから、再生も簡単です。パソコンやテレビに写し、映像として見ると思い出話もしやすいですよね。もし可能であれば印刷をして、フォトブックなど作れたらいいですね。パソコンに入ったデーターは自分で見ることは出来ませんが、アルバムの様に手に取れるものだと手軽に見ることが出来ます。
訪ねて来た友人や、ケアマネージャーさんなどにも是非見せて下さい。ディサービスに行っているなら、一緒に持っていくのもいいですね。きっと会話が弾み、笑顔があふれるひとときを過ごせるに違いありません。
ヘルパーさんなど介護サービスを利用しているならば、お土産の一つでも持たせたくなるかもしれません。でもそれは避けた方がいいでしょう。多くの事業所でそういったやり取りは好まれません。お土産をあげるのではなく、お土産話をして喜びを共有しましょう。もし、個人的に旅行に対するアドバイスをもらったのであれば、そのアドバイスに対する反応を伝えると喜ばれると思いますよ。「お勧めしてくれたあのお店に行ってみたら、とてもよかったですよ」と伝えれば、アドバイスをした甲斐があると、喜んでくれるに違いありません。写真を見ながら思い出を振り返っている幸せ、いいですね。その幸せを是非多くの人に伝えて頂けませんか?
今の時代、インターネットでいろいろと情報がやり取り出来るようになりました。LINEやFacebookといったSNSでも、遠くの親戚や友人に簡単にメッセージが送れます。旅行中撮影した写真や動画を是非共有してみて下さい。ちょっとした幸せのおすそわけです。その便りを見た方が連絡してくれたら、それはまた嬉しいことですね。
次に繋がるふりかえり
実際、旅行に行ってみていかがだったでしょうか。「楽しかったけど、疲れたかな…」「不安だった事は、大して問題にはならなかった」「やっぱり旅行はいい!」など、様々な感想が出て来たかと思います。その中でもやっぱり反省点はいくつかあるでしょう。「もう少し、下調べをすればよかった」「宿はよかったけど、昼ご飯がちょっといまいち」「トイレって一口に言っても、使いにくい所があった…」などなど、細かなことを言えばいろいろ挙がってくると思います。
それでいいんです。始めから、何の不満もなく全てがうまく行くというのは珍しいこと。反省点があって当然なんです。大切なのは、次。「また、行きたい!」なのか、「来年あたりに…」なのか、「もうこりごり」なのか。是非、ご本人に聞いてみて下さい。表情を見ればよく分かると思います。
満足そうな感じであれば、次の旅行を考えてもいいかと思います。もちろん今すぐでなくていいので、どのような旅にするのか、アンテナを立てるだけでも効果的かと思いますよ。いまいちな表情であれば、ちょっと間を置きましょう。写真やお土産を見ながら、思い出に浸るのがいいですね。日常に戻って、数ヶ月経った時、ふとした拍子に出かける気になるかもしれません。旅行としなくても、ちょっとした外出なら自信がついているかもしれませんよ。少なくとも、拒否がなければどんどん外出する事をお勧めします。外の刺激はとても大切なので。
もし、「もうこりごり」と評価されてしまったら、どうしたらいいでしょう。残念ながら、かなり腰が重くなってしまったと考えるしかありません。旅行プランに体力がついていかなかったからでしょうか。移動した割には、満足のいく時間が過ごせなかったからでしょうか。がっかりする気持ちはわかりますが、その気持ちを汲み取って、是非原因を明らかにして下さい。少し間を置いて、気持ちが変わるのを待ちましょう。一度は出かけられたのですから、原因が改善されれば気持ちが変化する可能性はゼロではありません。
いずれにせよ、思い当たる反省点を生かし、次の旅行に繋げる事はとても大切ですね。「年に1回、どこかに行く」といった恒例行事にするのもいいでしょう。ご年配の方は、一度決めるとそれに従いたいという欲求が強いです。早めにそういったパターンを作ってしまうと、毎年家族団らんが楽しめます。
「俺も行けるかも…」と思わせてほしい
今まで何度か書いているように「旅行なんて出来るわけない」と考えている高齢者はたくさんいます。なので、是非そういった方に楽しんだ旅行の話をしてほしいのです。身体状況の似たような方が旅行を楽しんだ話を聞くと、「あの人が行けるなら、俺だって…」となる可能性もあります。少なくとも「行けるわけがない」といった固定観念が少しずつ崩れていくのではないでしょうか。実際に行った人が目の前にいるのですから。
そうやって、不安や思い込みが変化していった時、旅への一歩が踏み出しやすくなるのだと思います。旅へ出かけるいい影響を自分の周りから発してみませんか?きっと、旅の輪が広がっていくと思いますよ!