介護が必要なご両親と一緒に旅行をするためのヒント集、今回は実際に旅行された方のコメントを交えながらお伝えしたいと思います。
初めてご覧になる方はこちらの「心構えについて」からご覧ください。
- あくまで旅行を楽しむためのヒントです。こうすればうまく行くといったマニュアルではありません。
- 介護者の体調や気持ちの状態によって、必ずしも文章と同様の反応が得られる訳ではありません。その方にあわせた対応をお願いします。
- 旅行について個別的なアドバイスを希望される場合は、こちらをご覧ください。
以前、北海道のラジオ局STVラジオにて、和みの風を紹介して頂きました。夕方の情報番組「情報アライブ」の「みんなの介護」というコーナーです。以下MC(牧やすまささん)より
このコーナーは介護にまつわるお話をお届けしています。介護をする方、介護を受けている方からのお悩みや、介護ゆえの感動、喜びをご紹介しています。
時には専門家をお招きしてのお話、そして介護に役立つ情報をお伝えしていく、ラジオを通してのそれぞれの情報交換の時間にしたいなぁという風に思っています。今日はメッセージを皆さんにご紹介をしたいと思うんですけれども、十勝清水町で「和みの風」というですね、お宿を営むオーナーさんからなんですけれども、ご夫婦ともに看護師というお立場であります。で、「持病や障がいをお持ちの方でもくつろげる宿」という想いの元に、2008年に和みの風をオープンさせたということなんですね。
オーナーさんのメッセージですが、
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お客様から「要介護5の母の背中を流したいんです」とメールを頂きました。7年間施設で過ごした後、同居を再開した親子の2人旅。入浴は娘さんの介助だけでは難しかった為に、有料とはなりましたがお手伝いをしました。夢だった入浴にお2人は大満足。
帰宅する車中、娘さんは涙していたそうです。それまで何度も経験した命の危機、大変な介護生活…。この旅行での変化を目の当たりにして、もっと元気なうちに来るべきだったと悔やんでおりましたが、いろんな事情があったご様子でした。私は現在も訪問看護師を続けていますので、利用者さんに旅行について聞くと「行ける訳がない」「諦めてる」と返ってきます。しかし、介護を必要としている方であっても、旅行を楽しむ事は笑顔を増やす事だと実感しています。旅には生きる意欲を生み出す力があると信じています。いきなりの宿泊旅行は大変です。まずは屋外散歩、そして日帰り旅行と行動範囲を広げていけば、より負担が少なく旅行を楽しむことが出来るのではないでしょうか。
「旅は最高のリハビリ」という言葉もあります。施設に引きこもりの方が当宿への宿泊をきっかけに、カナダにまで行く様になった事例もありました。介護が必要な方の宿泊には、ちょっとしたコツがあると思います。もし、皆様のご参考になるのであれば、お伝えできる事もありますので、ご協力させて頂ければと思います。
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と、こういうメッセージをね、いただいたんですね。ご夫妻でお宿を切り盛りしながら、そしてご夫妻ともに看護師として、ということなんですね。でも、このお母さんと入浴をされた方は、お母さんもそうですども、うれしかったでしょうね。まさか一緒に入浴できるとは思わなかったでしょうね。
私も父を亡くしてからなんですけれども、いわゆるヘルパー2級初任者研修という資格を取る実習をしたんですけど、その時あるおじいちゃんをお風呂に入れて背中を流すという実習があったんですけれども、背中流しながら、なんで親父にこれをしてあげられなかったかなという風に、つくづくと感じてしまった体験もあるんです。
その後、実際に私のインタビューをして頂きました。10分程の出演が終わり、ほっとしていた直後に電話が鳴りました。聞くと、今ラジオを聞いて下さった方からです。やや興奮気味で、ラジオを今聞いた事や車椅子でも泊まれるのかなどのご質問がありました。お身体の状況を聞き、全く問題ない事をお伝えすると、嬉しそうに電話を切りました。程なくして日程が決まりご宿泊頂きました。
当たり前が出来る幸せ
御主人が1年程前に脳梗塞となり、車椅子生活になったご夫婦。電話を頂いたのは奥さんから。
そして御主人が7年前に脳梗塞になったご夫婦もご一緒に。病院とディサービス以外外出していないとの事で、誘って下さったのです。
4人が到着されると、嬉しそうに宿内を見回しました。一人は車椅子、一人は杖歩行、そしてそれぞれの奥さんです。自宅から距離があったようなので、夕食まではベッドで一休み。ちょうどアスパラのおいしい時期でもあり、皆さんご満足頂けたようでした。
車椅子の方のお風呂は、リフトを使って私がお手伝い。ディサービスでは入っていましたが、夕食後に入るお風呂は1年ぶりだそう。そうなんです、ディサービスや病院など施設での入浴は日中に行われます。夕食後にゆったりとお風呂に浸かるという事が出来なくなってしまうのですね。普段、当たり前のように寝る前に入っていますが、ディサービスなどでの入浴はそういった事も難しくなってしまうのです。
その方はお身体の調子もあり、あまり長い時間は入れませんでしたが、とても嬉しそうにされていました。
旅行が近づくにつれ不安だらけだった
帰り際、いつものようにご家族写真をお撮りするか伺うとこんな答えが。
「写真はちょっと…、まだ受け入れられていないんです。」
普通に働いていた御主人がある日突然脳梗塞となり、生活が一変しました。「まだ若いのに…」と、ある職員の一言が心に突き刺さっていると話します。「なぜ私が…」と当然抱いてしまう感情を涙ながらに話してくれました。
そんな時、お隣にいた奥さん。「私が倒れなくてよかったと思ってるんです。主人に家事は出来ませんので」と。さすが7年もの大先輩は、前向きで重みがあります。
今まで普通に働いていた方が、突然脳梗塞になればだれでも困惑します。日を追うごとに実感が湧き、ふさぎ込んでしまう事でしょう。ご予約頂いた方も、毎日の生活で息が詰まりそうだったと話します。そんな時にラジオで聞いた「旅行のきっかけ」。思わず電話したそうです。あっという間に初めての旅行が決定しました。
しかし、旅行の日程が近づくに連れ、不安がどんどん強くなったそう。夜のトイレの事が心配だったと話しますが、漫然とした不安も。何しろ初めての旅行ですから、今までとは全く違います。イメージがつかないと言うのが本当の所で、「何かあったら…」という気持ちも当然あったでしょう。
脳卒中になり初めての旅行のために最初にする事
和みの風は看護師夫婦で営業していますので、その点も安心材料にはなったようです。それでも、不安の中旅行に出かけました。
結果大成功。
富良野や鹿追に寄り道して、1泊2日の旅を無事終えました。たった1泊と思われるかもしれませんが、それは大きな一歩です。「旅行が出来る」という自信は、これからの生活に大きく影響します。
このようなコメントを頂きました。
脳卒中などで倒れ、旅行をしようと思った時に最初にする事。この方のように、まず日程を決めるのがいいのかもしれません。「○月○日に行く」と日程が決まると、それまでにしなければ行けない事が見えてきます。日程が決まらないと「いつか行こう」になったり、不安が強く「やっぱりやめよう」となったり、大切な一歩を踏み出せないかもしれません。
確かに最初は不安がつきものです。しかし、いろいろな方に相談してしっかり準備をすれば、恐れる事はありません。一度行動を起こせば、それまでの不安はかなり軽くなります。実際、きっかけを作ればまた動き始める方がいます。毎日の生活に息が詰まりそうな方、旅行はただ「楽しむ」だけでなく、「考え方の変化」も連れてきてくれるかもしれないのです。もし、少しでも考えているのであれば、すばらしい明日が待っているかもしれませんね。
脳卒中で片麻痺になっても旅行できる方の共通点
「和みの風」には車椅子お客様が時々いらっしゃいます。脳梗塞などで片麻痺(=半身不随)の方もおり、奥さんが介助されるスタイルが多いように感じます。夕食後に病気の話になると、その回復力に驚かされる事が多いです。「入院していた頃は全く動けなかったんですよ」と言われても、想像できない程。皆さん、自分の体の使い方を熟知し、様々な動作を自分で行います。
ここでは片麻痺でも、旅行を楽しまれる方の共通点をお話ししたいと思います。
とにかく前向き
「私たちはラッキーでした」と何度も口にする奥さんがおりました。「(発症後)すぐ発見されて、本当によかった思います」と話す御主人がいました。病気になり後遺症があると、どうしても介護の負担が増えてしまいます。しかし、皆さんそういった事はあまり触れられません。既に受け入れていらっしゃるんですね。「あれが出来ない、これが出来ない」とマイナスな考え方では、いつまでたっても旅行は楽しめません。
「あれが出来る、これが出来る」と出来る事を挙げ、前向きに考えられる方がとても多いように思います。
失敗を恐れない
今まで介護している中で、いろいろな失敗があったかもしれません。でも、それは大きな問題ではありません。今を楽しめればそれでいい。こうやって旅行できるくらいまで改善し、笑っていられる事の方が幸せなのです。あのときの失敗があるから、今の幸せがあると実感しているんですね。逆に言うと、今の幸せはあのときの失敗の連続から育てられたものと感じているようです。
不安は失敗を恐れるから生じるもの、失敗を恐れなければ、不安も強くならないようですよ。
ささやかな幸せを感じる
「今日は美味しい物を食べた」「とてもいい天気だった」などなど、ささやかな幸せをしっかり感じているように思えました。気にしなければ何も感じない事でも、しっかりアンテナを張っているとすばらしい事に見えてきます。その幸せをともに分かち合える方がいるなら、なおすばらしい事ですね。「この花、きれいだね」とつぶやいた時、「そうだね」と言ってくれる人がいると、その幸せはもっと大きなものになると思います。
何もない朝でも、「今日も朝を迎えられた」と、幸せを感じられる方もいます。それは、当たり前が当たり前ではないとわかったからこそ、実感出来る感情なのでしょうね。
何でもやってもらう
今度は介護する側の考え方。介護する方が全てを抱え込んでしまうと、どうしてもストレスを溜め込んでしまいます。「私が我慢すればいい」ではいつか壊れてしまいます。始めから出来るだけ周囲の方に依頼すると、うまく進むようです。
「いっぱい頑張ったから、あとは任せる」と、人に頼むのも一つの技量でしょう。そうやって、周囲を巻き込むことが出来ると、旅へのステップが一歩進みます。
もちろん介護される方にも、どんどん参加してもらうのは言うまでもありませんね。旅行先の選択はもちろんの事、日程やプラン宿の選定まで。出来るだけ参加してもらって、旅のわくわくを大きくすると期待も膨らみます。
そんな気持ちになれないという方へ
倒れてしまったばかりの頃は、その方の障害や大きく変わってしまった生活を受け入れるのに、相当な時間がかかると思います。今まで書いてきたような心境になれない自分に、歯がゆく思う方もいらっしゃるでしょう。でも、自分だけではありません。こうやって旅行に出られるようになった方でも、皆さん始めは悩んで苦しんで、真っ暗闇の中をもがいてきた方ばかりです。つらかった頃の話をするかしないかはその方の性格。生活が大きく変わってすぐに受け入れられる方なんていません。
だから、慌てないで下さい。介護に追われて苦しい自分をやさしく抱きしめて、ゆったりした気持ちで過ごしてみて下さい。無理に考え方を変えずに、少しずつ自分の心と会話する。そんなやり取りが今までお話ししてきた方のようになる秘訣なのかもしれませんね。