介護が必要なご両親と一緒に旅行をするためのヒント集、今回は糖尿病・脳卒中・在宅酸素・透析利用と疾患別に気をつけたいポイントをご紹介します。
初めてご覧になる方はこちらの「心構えについて」からご覧ください。
- あくまで旅行を楽しむためのヒントです。こうすればうまく行くといったマニュアルではありません。
- 介護者の体調や気持ちの状態によって、必ずしも文章と同様の反応が得られる訳ではありません。その方にあわせた対応をお願いします。
- 旅行について個別的なアドバイスを希望される場合は、こちらをご覧ください。
糖尿病の方は旅行を控えた方がいいのでしょうか
今や1,000万人を超え、国民病とも呼ばれている糖尿病。皆様の周りにも1人や2人は、いやもっとたくさんいるのではないでしょうか。糖尿病の恐ろしさは知られているのですが、いざ自分の事となるとなかなか実感が湧かないのが現実のようです。
旅行……、普段と異なる生活が人生に刺激を与えてくれるのは、糖尿病の方でも同様です。でも問題点があります。旅行すると、とにかくカロリー過多になりやすいのです。まぁ、当然ですよね。一般の方が旅行したって、帰った頃に体重計に乗るのが怖くなるのが常ですから。まして糖尿病の方が、旅行中カロリーセーブをするのはとても難しい事です。
糖尿病の方が旅行するときに、非常に参考になるサイトを見つけました。細かく、具体的に書いてありますので、是非ご覧になって頂きたいと思います。
とても、詳しく書いてあり書く事がない程なので、ちょっと違った視点から。
ホテルで食事を取らない
最近は糖尿病の方が増えて来た事を受け、糖尿病専用メニューをだしてくれる宿も出て来ました。しかし、そんな気の利いた宿はごく少数です。多くのホテルではバイキングが主流。昔は朝食のみでしたが、今は夕食もバイキングという所も多いですよね。
やはり「バイキング」は避けるべきだと思います。ホテルの質により、品数や味にかなりばらつきがあるとは思いますが、美味そうな料理がずら〜っと並び、しかも食べ放題となると、どう考えてもカロリーオーバーするのは当然です。
料理を目の前にしたら、こんなルールは守れないのではないかと思います。「ダイエットは明日から〜」と昔流行ったCMソングを口ずさむ方もいるのではないでしょうか。
そこで、バイキングをやめるのはいかがでしょう。食事はホテル以外のレストランで楽しむのです。少なくともバイキングよりは、カロリーを抑えることが出来ます。もちろんレストランでもたくさん注文しないでくださいね。
新しい靴を履くと…
旅行ですから、洋服や靴を新調したくなる気持ちもわかります。身に付けるものが変わると、気持ちも盛り上がって来ますよね。ただ、靴については注意が必要です。買ったばかりの靴で旅行に出るのはやめましょう。
糖尿病による神経障害のため、足の感覚が鈍くなっている場合もあります。ちょっとした靴ずれが感染を引き起こしたり、潰瘍化してしまう事さえもあります。自宅であれば、すぐに今までの靴に戻せますが、旅行となるとそうはいきません。足にあわない靴を履き続けなければならず、結果的に傷が悪化する可能性もあります。靴を新調するのであれば、自分の足にあうものを選び、ある程度歩いて履き慣らしておく事が大切です。
カロリーさえ気をつければ、旅行は運動量も増え気分転換にもなり、いい刺激を与えてくれます。食べたい気持ちはとてもわかりますが、ここはぐっとこらえてたくさん歩いていろいろ巡りましょう。動いた分だけ、おいしいお食事が楽しめますよ。くれぐれも、食べ過ぎには注意して下さいね。
酸素ボンベを引っ張りながら旅行なんて出来るの?
「在宅酸素」という言葉をご存知でしょうか。肺の機能が低下して、常に高い濃度の酸素が必要な方に対し、機械を使って自宅で過ごせるようにした治療法です。「Home Oxygen Therapy」を略して「HOT(ホット)」と呼ばれたりもします。
「酸素ボンベを引っ張って旅行なんてできますか」
はい、出来ます。症状が安定して主治医の許可さえあれば、全く問題ありません。むしろ是非してほしいと思います。
在宅酸素が必要な方は、肺の機能が悪い方です。そういった方は、倦怠感が強かったり、少し動いただけでも息が苦しくなったりします。徐々に動く事に対して抵抗感を持つようになり、より動かなくなる。動かなくなるからより肺の機能も低下する…。という悪循環に陥りやすいのです。
身体と相談しながら、運動する事はとても大切。なので気持ちもリフレッシュ出来る旅行は、在宅酸素を利用の方には適切だと私は思います。
何から始めたら?酸素はどこから?
まず主治医に相談。でも、恐らく禁止とは言われないでしょうから、具体的なプランを示して確認しましょう。そして、大切な事は処方箋を書いてもらう事。旅行のための酸素を手配しなくてはなりません。宿泊旅行の場合は宿泊地に大型の機械(酸素濃縮器)を設置する必要もあり、医師の診断書が必要なんですね。既に利用されている業者に連絡すれば、必要な手続きを教えてくれますよ。設置自体には料金はかかりませんが、処方箋に料金がかかる場合があるので注意が必要です。
酸素濃縮器の設置に時間がかる場合があるので早めの連絡が必要です。宿泊先へも事前に報告が必要ですね。多くの宿泊地では酸素濃縮器の設置は可能ですが、宿泊当日でないと困難だと思います。何しろ、前日には他のお客様が過ごしていますから。宿に到着したら、使えるかどうかすぐに確認しておきましょう。
鉄道や飛行機を利用される場合は、酸素ボンベの持ち込みは1人2本と決められています。ボンベ自体重いので、多量に持ち運ぶものでもないのですが、利用される方は事前にそれぞれの会社に確認しておきましょう。
火気厳禁!
酸素を利用されている方なら、さんざん言われている事かと思いますが、火気厳禁です。酸素ですから、火が燃えやすくする性質を持っているんですね。いきなり爆発する訳はないので、過度に心配する事はありませんが、火気類から2m以上離れた方がいいといわれています。
気をつけなければならないのが、外食。焼き肉やお好み焼きなど火を使うレストランには入ることが出来ません。店中火ばっかりです…。また、バイキングなどで火を使って温めている場合は、そばに寄ることが出来ません。一緒に行かれている方が、取り分けてあげるといいでしょう。
もちろん、禁煙は守られていますよね。つらいかもしれませんが、一緒に行かれる方も我慢して下さい。
一番大切のな自分の体力を知ること
在宅酸素をされている方は、往々にして息が苦しくなりやすいです。旅行なんて考えられないかもしれません。でも、少しずつでもいいのです。「あの地に行きたい」と目標を立てて、活動範囲を広げてみてはいかがでしょうか。「息が苦しくなる」と書きましたが、多くの方は少し休めばすぐ回復します。
自分がどのくらい動くとどのくらい苦しくなり、どのくらい休憩すれば回復するのか。その現状を理解する事がまず大切です。
在宅酸素が適応の方は、肺気腫を始めとした慢性呼吸器疾患(COPD)です。肺炎で急激に悪化する場合もありますが、往々にして年単位で変化なくおつきあいしなければならない病気です。
ちょっとした外出から始め、散歩してみる。酸素飽和度(サチュレーション)といって、体内の酸素をはかる機械をお持ちだと思うので、下がり具合を見ながら歩くのもいいですね。リハビリをしても、すぐに体力が回復する訳ではありません。でもそれは、リハビリをしなければ、もっと速い速度で悪くなっていったと思います。
改善が難しければ今ある体力でどのように旅行に出かけるかを考えてみて下さい。先ほど書いたように、休憩すれば回復します。自分の旅行ですから、いくら休憩してもいいんです。自分自身の旅行を繰り返す事で、有意義な時間を増やすことが出来ると思います。
まず、現状を理解する。そんな取り組みで、あの地に再び立てる喜びを感じられるのかもしれませんね。
片麻痺でも旅行を楽しむための練習とは?
もう、20年も前の話ですね。「和みの風」を作りたいと考えた時、まず始めたのは脳神経外科病院への勤務でした。車椅子での旅行→片麻痺(=半身不随)→脳梗塞→脳神経外科
という図式から。今考えれば「なんと安直な」という感じですが、やっぱりここでの知識は今でも役に立っています。
片麻痺は、障害が目に見えやすく現れるので、ご自身もご家族も大変なショックを受けます。普通の生活もままならないので、このままの状態が続くのでは、と悲観的に考えがちです。旅行なんて夢のまた夢、という状況になりやすいですね。
出来れば避けてほしいのが、施設などからいきなり宿泊旅行をすること。施設は設備も整っていますし、適切な技術を備えたスタッフもたくさんいます。その状況から、いきなりご家族の介護で宿泊旅行に行くのは、かなり危険度が高いと思います。出来なくはない状態の方もいらっしゃるでしょうが、お手伝いされる方が大変な場合も…。
夢のまた夢を現実にするために一番近道で現実的なのが、練習する事だと思います。練習と言っても、平行棒で歩いたり、筋肉のトレーニングをする事ではありません。それはそれでとても大切なのですが、もっと具体的な動作の練習が大切です。
使いにくいトイレを知る
とにかく、一番気になるのがトイレですよね。トイレのために旅行に行く訳ではないのですが、トイレに行かなくては旅行にも行けません。トイレの心配が減っていけば、旅行に行くハードルもかなり下がって来ます。利用するトイレと言えば車椅子用トイレや多目的トイレとなりますが、一口に車椅子用トイレと言っても実はいろいろバリエーションがあります。バリエーションがありすぎるくらいです。
わかりやすい例で言えば、手すりのついた壁が便器に対して左にあるか右にあるか。一般の方であれば、それほど気にならないと思いますが、片麻痺の方にとっては大問題です。通常、自由に動く手の方にL字型の手すりがあると、使いやすい配置であると言われています。なので最近の病院では、階や場所によってレイアウトが正反対になっているトイレがあります。右麻痺用と左麻痺用と分かれているんですね。
でも、旅行となるとどのようなレイアウトのトイレなのかまずわかりません。以前ご紹介したこちらのサイトでは写真で見ることも出来ますが、数はあまり多くありません。
そこで提案です、使いにくいトイレを知りましょう。相談しやすい理学療法士や作業療法士はいませんでしょうか。病院でもディサービスでもどこでもいいので、是非聞いてみて下さい。右麻痺の方であれば、壁が左側にある場合どのように便器に移ったらいいのか。そしてどのようにズボンを上げ下げしたらいいのか。介助の人が必要であれば、どのように介助したら安全かつ楽に出来るのか。
そうやって、普段使っているトイレとは違うレイアウトのトイレを使う事によって、いろいろなトイレが使える技術を高められます。こういうトイレはこう使う、この手すりの場合は手伝ってくれる人がいれば大丈夫、という風にトイレの見る目を養うことが出来るのです。それは経験を積めば積む程、上手になります。体の状態は変わらなくても、移動しやすい足の位置や角度を知っていくのです。
一つ一つの動作を分けて練習する
トイレが上手になったら、次はお風呂にチャレンジです。今は設備の整ったスーパー銭湯がたくさんあります。お風呂は着替え、体を洗う、浴槽に浸かるなど様々な動作が必要です。それを旅行で疲れた体で行うのは危険な場合もあると思います。お風呂の練習をするために外出する、それが出来なければ、旅行でお風呂に入るのは避けた方がいいとさえ思いますよ。
トイレやお風呂、さらには外食や買い物など、いろいろな動作を日帰り旅行を繰り返す事で習得してみましょう。つまり、宿泊旅行の一つ一つの行動を取り出して練習するのです。そうやって段階を踏んで技術を高めれば、きっとみんなが楽しめ、有意義な旅行を作り上げることが出来ると思います。
「練習なんて大変だから」と考える気持ちもわかりますが、いきなり旅行に行って、「こんなはずじゃなかった」となってほしくないんです。疲労感だけが残る旅行では、もう旅に出たいという気持ちになりませんから。
健康保険証とお薬手帳を持っていく、再梗塞を防ぐために水分を十分摂取する、など基本的な事を十分確認した上で、一つ一つの技術を楽しみながら習得して頂けたらと思います。その結果、ただ旅を楽しむというだけではなく、生き方そのものが変わってくる程の変化を生むことが出来ると思います。
病院とディサービスの往復だけではない人生を、一人でも多くの人が感じて頂ければと思います。練習は必ず実を結びます。まず、一歩外に出てみませんか。
旅行透析って何?
ここでは透析のお話をしたいと思います。透析とは皆さんご存知の通り、腎臓の機能を機械でその役割を果たすものですね。現在日本に32万人程いるそうです。透析になると1日おきに半日から1日病院にいるので、旅行なんて難しいと思っていないですか?
ハードルが高いと思われがちですが、慣れてくればそれ程でもないのが旅行透析なんです。旅行をするためにする透析なので「旅行透析」。例えば札幌に旅行するとしたら、札幌の病院で透析を受けるのです。しっかりと情報を引き継げば、普段かかりつけの病院で受けている透析と同じように、受けることが出来ます。具体的にはこちらに詳しく
とにかくかかりつけの病院で先生に相談するのが第一歩です。旅行先の病院の資料を渡してくれるかもしれませんし、インターネットで探す必要があるかもしれません。いずれにしても、旅先の病院を見つけ、旅行中普段と同じように透析を受けるという事です。病院はこちらから探すといいでしょう。
持ち物などそれぞれの病院で異なりますので、事前に確認が必要ですね。また、普段より医療費の自己負担が増えますが、自宅の市町村に申請をすれば助成が受けられます。
旅行透析を受ける事よりも高いハードル
先ほど書いたように、手続き上の問題はそれほど大きくはありません。時間がかかる事もありますが、早めに行えば問題ないでしょう。それよりも、問題なのが体力です。透析を受けている高齢者の方の多くは、疲れやすさや倦怠感を訴えます。北海道弁で言うと「体がこわい」という状態ですね。
血液透析では、健康な人の腎機能の10%程度しかまかなえないと言います。それだけ、体の中に老廃物が残っている状態なのです。そのため、様々な条件が整い腎移植を行った患者さんは、頭がすっきりして、やる気がみなぎってくると言う方もいます。人工透析は体に負担をかけるんですね。
そんな状態なので、旅行に行きたいという気持ちになれないのが現状です。若い方ならともかく、高齢になった状態で透析旅行に行くというのは、やはりハードルが高い方が多いようです。出来る事と言えば、まず短い期間自宅から離れる事。少しずつ旅行出来る範囲を広げるのがいいと思います。小旅行を繰り返す事で、自分がどのくらい動けるのかイメージするのが大切。
食事についてもさんざん注意点を言われていると思います。旅行するとどうしても、制限が甘くなってしまいやすいので、周りの方が気をつけてあげられたらいいですね。最後に旅行透析を専門に取り扱っているツアー会社をご紹介します。ご参考までに。