介護が必要なご両親と一緒に旅行をするためのヒント集、今回から病名ごとのご紹介。
心構えについてはこちらをご覧ください。
- あくまで旅行を楽しむためのヒントです。こうすればうまく行くといったマニュアルではありません。
- 介護者の体調や気持ちの状態によって、必ずしも文章と同様の反応が得られる訳ではありません。その方にあわせた対応をお願いします。
- 旅行について個別的なアドバイスを希望される場合は、こちらをご覧ください。
2人に1人がガンにかかり、男性が4人に1人、女性が6人に1人がガンで亡くなるという時代、ご両親はもちろんこれを読んで下さっているご自身についても、ガンへの不安を感じた事があるのではないでしょうか。
「4人(6人)に1人が亡くなる」と書きましたが、実はこの数字、年齢については言及していないのです。例えば、現在40歳の男性が20年後(60歳)までにガンで死亡する確率はわずか2%だそう。より高齢になるほどかかりやすくなるため、一生涯で見るとこういった数字になってしまうとか。
とは言え、身近になってしまった重大な病気「ガン」。ガンになってしまったら旅行はあきらめた方がいいのでしょうか。
告知されたばかりの頃は…
ガンとの関わりは病院の診察室から、という方も多いでしょう。告知されれば相当のショックを受け、いろいろな不安に教われるのは当然です。自分の体がどうなってしまうのか、治療はどうするのか、症状は出るのか、治療費は…、などなど今まで普通に生活していたのが嘘のように、世界が変わってしまいます。
そんな方に対して、旅行を勧めるのはやめた方がいいと思います。精神状態も不安定な時に、旅行を楽しめることは出来ないでしょう。
…と、言いたい所ですが、必ずしも全て当てはまるとは限りません。実はこんな状況だからこそ、旅行した方がいい場合もあるんです。それは、旅行そのものが気分転換や生きる意欲に繋がるからですね。
今までにない風景を見たり、おいしい食べ物を楽しんだりする事で、病気ばかり考えていた自分と離れられます。一時的ではありますが、自分の体への不安を忘れることが出来るんですね。ご家族や気心の知れた仲間と話したり笑ったりする時間が、生きる意欲を蘇らせてくれるのです。特に手術前に1泊程度の小旅行はお勧めですね。「手術を終え、体力が回復したらまた旅行に行きたい!」と、前向きに変われるのかもしれないからです。
その方の性格や病気への向き合い方、また症状の有無など、提案するタイミングを十分に考える必要がありますが、もし受け入れられるのであればとてもよい経験に繋がると思います。
化学療法などで治療中となると…
化学療法や放射線療法で治療中となると、状況はかなり変わります。治療している最中は副作用も出やすく、症状も出やすい時期です。吐き気が強いなど明らかな症状があれば、旅行なんてとても考えられませんが、あまり症状がないとしても、気軽に旅行とはなりません。治療自体、体に負担をかけるものが多く、特に白血球の減少により、感染しやすい状況が続いている場合が多いんですね。
旅行を考えるのであれば、まず主治医に相談しましょう。その時は日程や場所、楽しみたい事など具体的に伝えた方がいいですね。「温泉に入りたい」という気持ちもあるかもしれません。ガン(=悪性腫瘍)は温泉の禁忌症に含まれている事が多いのですが、現在では旅行や入浴が出来る程度の体力があれば、問題ないと解釈されているようです。
どんな状況にあるにせよ、まず医師に相談が第一です。許可が下りれば、是非スケジュールを立てて下さい。無理をしない、時間に余裕を持つなど一般的な注意点は同様です。そうして得た非日常は、きっと病気と向き合う力を蓄えてくれると思います。
少しでも前向きになる事を信じて、旅行の力を信じてみてはいかがでしょうか。
末期がんになったら、旅行は無理でしょうか?
この記事を書く際、「ガン 旅行」とネット検索しました。するとかなりの割合で「末期がん」の記事が出て来ました。「残された時間」と数字で示された時、旅に出たいと思うのはある意味当然なのかもしれません。私の個人的な意見では「ご本人の希望なら、是非行ってほしい」となります。ただ、それを決めるのはやはり当のご本人だと思います。
まず主治医に確認するというのは前述同様ですが、「旅行は禁止」と告げる医師はあまりいないと思います。いたとしても、それは病状が安定していないから。急に症状が悪化する可能性を考慮した結果なのだと思います。また、何かあったときに自分の責任になる懸念もあるかもしれません。「何があっても自己責任とします」と伝える、場合によっては一筆書くなどの対応により、応じてくれるのではないでしょうか。
より人間らしい時間を過ごしたいという気持ちに共感する医師は、たくさんいると思いますよ。ただ「無理しない程度」、「急変時はすぐに連絡」と一言添えられるかもしれません。もちろん症状により、現実的ではない方もいるかもしれませんが、それでも多くの方の協力でかけがえのない時間を過ごせる方もいるでしょう。
「旅に出たい」という強い気持ちがあれば、それを叶えてあげたいと思うのが家族ですね。
「では計画を!」とすんなりいかない場合も…
本人の強い希望があっても、計画が進まない事があります。それは、誰かが反対している時。旅行中に何かあったらどうするの」と、大きな不安が旅への一歩を踏みとどまらせてしまいます。奥さんが患者だとしたら、その御主人が反対するというパターンも良くありますね。こういった場合、御主人がまだ末期がんであるという現実を受け入れられていないことが多いです。
でも、それは当然です。いくら「末期がん」と診断されたからって、大切な人を失うかもしれないという状況を、早々と受け入れるのは難しいのです。「残された人生を充実させたい」と頭ではわかっていても、その旅行が残された時間をさらに短くする可能性があると思ったら、賛成なんて出来ません。ですから、旅行に反対したとしてもすぐに非難しないで頂きたいと思います。
…難しいですね。
本人の思いはかなえてあげたい、でも1日でもいいから長く一緒に過ごしていたい。そんな葛藤の中、時間ばかりが過ぎていくのかもしれません。時間がないのは皆知っているので、お子さんなど周りのご家族が、やきもきするという場面もあるのではないでしょうか。恐らくこのせめぎ合いを打ち砕くのは、ご本人の強い想いと周りのサポートでしょう。無理矢理連れて行った所で、大切な人を失う恐怖は避けられません。
「家族一緒の思い出を作りたい」、「短期間で体の負担はそれほど強くないようプランを作る」など、現実的に出来る事を少しずつ伝えていくのがいいのかと思います。「今、一緒に行けなかったら一生後悔する!」と少し強めに言うのも、ご家族だったら出来るのかもしれませんね。
ただ、反対される方は闇雲に反対しているのではなく、同じようにつらい思いをしているという事は、わかってもらえたらと思います。
計画、そして行動
末期がんと診断がついてしまった以上、多くの方は時間がありません。何からしたらいいのか、わからないまま時間ばかりすぎてしまうでしょう。今までご紹介して来たように、目的をはっきりとさせた上で、プランを作りましょう。また、体の状態や症状について聞きたい事は、医師にどんどん聞きましょう。聞きたい事は紙に書いておくといいですよ。また、聞きづらい事は看護師に相談してもいいですね。
- 旅行中どんなことが起こりやすいのか、そうならないための予防法は?
- どの程度の移動(運動)なら可能なのか、この旅行プランなら耐えられるか?
- もし体調に変化が見られたときに、どのようにしたらいいのか?
- 主治医に連絡したい場合、いつなら大丈夫か?
- 一時的にステロイドの使用は可能か?
※ステロイドは末期がんで多くの方が訴える全身倦怠感の改善を期待できます。旅行前に開始する事で、よい効果に繋がる事もありますが、長期に使用できないデメリットもあります。
ご家族だけの旅行が不安なら、看護師に同行してもらうという方法もあります。以前書いたように親戚などにいればいいのですが、難しい場合は訪問看護師に依頼するのもよいでしょう。ただ、医療保険や介護保険は利用出来ませんので、全額自費扱いになります。残念ながらかなりの高額になる事は否めませんが、安心料と考えることも出来ますね。
既に訪問看護を利用されているのであれば相談する価値はあると思います。全くわからない方はご自宅近くの訪問看護ステーションに直接連絡するか、知っているケアマネージャーに問い合わせてみるのもよいでしょう。保険外でも協力してくれる訪問看護ステーションを紹介してくれると思います。
現実的には日帰りか1泊旅行など短期間での旅行になるでしょう。時間は短くてもその方、そのご家族にとってはかけがえのない時間になる事は間違いありません。ただ旅行に行く事で、残された時間が短かくなる可能性がないとは言えません。でもそれは、その旅行が寿命の縮めたのではなく、その旅行をやり終えたからと考えてはいかがでしょう。充実した時間を過ごして得た満足は代え難いものだと思います。
つらい別れとなりますが、その方が少しでも満足した時間を過ごす事が、残された方々の後悔を減らし、よい思い出に繋がるのではないでしょうか。旅はその役割を果たすことが十分に出来ると思っています。時が止まっている様な穏やかなひと時が過ごせるといいですね。